東京地方裁判所 昭和28年(ワ)702号 判決
原告 岩井清太郎
被告 苗木一男
一、主 文
原告の請求は、いずれもこれを棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
二、事 実
第一、請求の趣旨
原告訴訟代理人は「被告は別紙目録<省略>記載の電話加入権について、加入名義を原告に書換え、その架設場所を東京都荒川区日暮里町四丁目二百十三番地、家屋番号同町二百十三番の十、木造モルタル塗瓦葺二階建旅館一棟内の原設置場所に変更の手続をせよ。右の請求が認容されないならば、三十万円の金員を支払え、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。
第二、請求の趣旨に対する答弁、
被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求めた。
第三、請求の原因、
一、原告は昭和二十七年七月十五日、訴外高島三平より、請求の趣旨掲記の旅館(以下本件旅館という。)を、同旅館営業用の什器附属設備及び同旅館内に設置されていた浅草局三千番の電話加入権(以下本件電話という。)と共に代価金百五十万円で買受け、同年八月一日右旅館の引渡を受けた。なお、右の電話の譲渡については、原告は前記訴外人からその加入権の譲渡証、右加入権の名義書換に必要な白紙委任状、並びに印鑑証明書の交付を受け、現にそれらを所持している。
二、本件電話は、昭和二十七年十月二十八日迄その加入権の譲渡が禁止されていたため、本件電話加入権の名義書換えが直ちにできなかつたため、その禁止が解除された後にその加入権の名義変更の申請手続をしたが、印鑑証明書の不備により、その目的を達しなかつた。
三、その後、前記訴外人は、被告と通謀して、本件電話を、被告の同訴外人に対する貸金債権の担保として被告に譲渡したものゝ如く仮装し、昭和二十八年一月二十一日、本件電話加入権を被告名義に変更し、その設置場所を東京都台東区竜泉寺町三百八十一番地に変更した。
四、従つて、被告は、原告が前記訴外人から本件電話加入権の譲渡を受けたことを知りながら、訴外高島三平と通謀し、真に電話加入権を譲受けたことなきにかかわらず、恰も代物弁済として取得したものであるかのように仮装して本件電話の名義を被告に変更したものに過ぎないから真の所有者ではない、よつて原告は被告に対し、本件電話の加入名義を原告名義に変更申請手続を求め、更にその設置場所を原設置場所に変更申請手続を求める。
五、かりに原告の前記請求が理由のないものであるとしても、被告は前記訴外人と共謀して、原告が本件電話の譲渡を受けた後、その事実をよく知り乍らまだその加入名義を変更しない内に、昭和二十八年一月二十一日右名義を被告に変更し、以て本件電話加入権の原告への帰属を妨げたことによつて、右電話加入権の価格に相当する三十万円の損害を原告に与えた。従つて、原告は被告に対し金三十万円の損害の賠償金の支払を予備的に請求すると述べた。
第四、被告の答弁及び抗弁、
原告主張の請求原因事実中、
(一) 一、の事実は知らない。
(二) 二、の事実中、本件電話が昭和二十七年十月二十八日迄その譲渡が禁止されていたことは認めるが、その他の事実は知らない。
(三) 三、から五、までの事実は否認する。
(四) 被告は昭和二十七年四月二十八日訴外高島三平に対し、金三十万円を、返済期日は昭和二十七年十二月三十一日との約定で貸与し、同時に訴外高島三平所有の浅草局三千番の電話加入権を右貸金債権の担保として被告に譲渡し、且つ、履行期に弁済しないときは、完全に被告の所有に帰する旨の契約をして、その名義変更手続に要する一切の書類を被告に交付した。然しながら当時、本件電話はその譲渡を禁止されていたので被告は前記書類を保有していた。その後、前記訴外人は、履行期である昭和二十七年十二月三十一日に右貸金の弁済をしないので、被告は昭和二十八年一月二十一日、本件電話加入権を被告名義に変更手続をした。従つて、本件電話加入権は右のように適法に被告名義に変更されたのであり、且つ被告方に架設されて、現在使用中なのであるから、原告は被告に対し、本件電話加入権の取得を対抗できないのである。
第五、被告の抗弁に対する原告の再抗弁、
本件電話は、政令によつて、昭和二十七年十月二十八日までその譲渡、及び担保の目的とすることは禁止されていたのであり、被告はその禁止期間中に、訴外高島と、本件電話の担保権設定契約及び代物弁済契約を結んだのであるから、前記契約は無効であり、従つて、本件電話加入権が被告名義に変更されたのは無効である。
第六、原告の再抗弁に対する被告の答弁及び主張、
原告の右主張事実は否認する。かりに、原告主張のとおりであるとしても、本件電話加入権の譲渡禁止が解除された後に被告と、前記訴外人との間にその名義変更の合意が成立したのであるから、原告の主張は理由がない。
第七、証拠方法<省略>
三、理 由
第一、原告の主たる請求に対する判断、
(一) 原告は、訴外高島三平から、昭和二十七年七月十五日、本件旅館と共に本件電話を代価金百五十万円で買受け、同年八月一日その引渡を受けたのであるが、当時本件電話の譲渡は禁止されていたため、その加入権の名義書換手続をしない間に被告は前記訴外人と通謀し、原告が本件電話を買受けたことを知りながら、真に電話加入権の譲渡を受けたのでないにかかわらず、恰もこれを同訴外人に対する貸金債権の担保として売渡しを受けたものの如く仮装したものであるから、被告は真の電話加入権の取得者でないと主張しているので、考察してみる。本件電話が浅草局三千番でしかも新設電話であることは当事者間に争いのないところであり、成立について争のない甲第三号証の一、二、原告本人岩井清太郎の訊問の結果によつてその成立を認め得る甲第二、第六号証弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認める甲第一号証と鈴木庸之助の証言及び原告本人岩井清太郎の訊問の結果を綜合すれば、原告は昭和二十七年七月十五日本件電話を本件旅館と共に買受け、その引渡を受けたが、その当時は「電話加入権の取扱及び電話の譲渡禁止等に関する政令」(以下政令という。)により、本件電話加入権の移転が禁止されていたため該加入権の名義を原告名義に書換ることができなかつたことを認めることができる。而しながら被告本人苗木一男訊問の結果によつてその成立を認め得る乙第一号証及び同第二号証の一、二と証人小野寺終一同鈴木庸之助の各証言及び被告本人苗木一男の訊問の結果によれば、被告は昭和二十七年四月二十八日訴外高島三平から、本件電話を同訴外人に対する三十万円の貸金債権の担保として、その譲渡を受け、右債務を同年十二月三十一日の履行期に弁済しないときは、被告は本件電話の所有権を債務の弁済に代えて完全に取得するとの特約にもとずいて、被告は訴外高島三平が右弁済期を経過しても弁済しないので、右訴外人とも更に協議の上原告と右訴外人間の取引等知ることなく一月二十一日、本件電話加入権名義を被告名義に変更手続した上設置場所も台東区竜泉寺町三百八十一番地の被告の住所に変更したことを認めることができ、他に右事実認定を覆すに足る証拠はない。以上の事実によれば被告は、原告が前記訴外人から、本件電話、本件旅館と共に買受ける以前に、既に前記訴外人と、本件電話を担保の目的物とする譲渡担保契約を結び、更に同契約の趣旨に従つて本件電話加入権を昭和二十八年一月二十一日被告名義に変更したことが認められるのであり、証人内田蝶子、同鈴木庸之助、原告本人岩井清太郎の供述中、右の認定に反する部分は信用することができない。従つて、この点に関する原告の主張は理由がないといわざるを得ない。
(二) 原告は、本件電話は、政令により、その譲渡を禁止されていた電話であり、被告のための譲渡担保権設定は、その譲渡禁止期間内になされたものであるから、無効であると主張しているので、この点について考察すると所謂新設電話である本件電話が昭和二十七年四月頃は勿論同年十月二十八日迄政令によつてその譲渡が禁止されていたことは当事者間に争いがなく、しかも右政令はかく解されるところ所謂電話加入権は、電話加入者と電話事業の経営者である日本電信電話公社(当時は、電気通信省)との間の契約により発生する一つの継続的法律関係にもとづいて、加入者が電信電話公社に対して有する役務の提供並びに物的設備の利用を許容させることを内容とする私法上の債権であり、且つその給付の内容は、私人の経済上の需要を満足させるものであるから、財産権の範疇に属するものと認められる。このような権利は、もとより一身専属的なものと解することはできない。然らば斯る権利の譲渡又は担保差し入れに関する契約が当事者間において無効となるいわれはなく、縦令一時その譲渡又は担保差し入れ等の行為が何等かの便宜のため禁止さるることがあつても、その禁止が解消するに至らば禁止期間内に為された譲渡又は担保差し入れに関する契約は、完全にその所期の目的を達成し得る状態に立至るべきこと疑いを容れないところである。仮りに然らずとするも被告への名義書換については禁止が解消した後である昭和二十七年十二月三十一日から昭和二十八年一月にかけて被告と訴外高島三平との間に協議が行われ合意の上名義書換が行われたことさきに認定した通りであるから、原告のこの点に関する主張はいずれの点からするも全く理由がない。(しかのみならず若し原告主張の如しとすれば原告自からも電話加入権を訴外高島三平から取得し得ないことを主張自体に照し明かである。)以上認定の事実によれば、原告の被告に対する主たる請求は全く理由がないといわなければならない。
第二、原告の予備的請求に対する判断、
原告は被告が訴外高島と共謀して、原告が既に昭和二十七年七月十五日前記訴外人より、本件電話を買受けたことを知りつゝ、当然原告に帰属すべき本件電話加入名義を昭和二十八年一月二十一日被告名義に変更して、原告へのその帰属を妨げ、以て原告に、右加入権の価格に相当する三十万円の損害を原告に与えた、と主張するので考察すると、前示認定の如く、原告が前記訴外人から本件電話を買受ける以前、既に本件電話を担保の目的物として、被告は、前記訴外人からその譲渡を受けているので、原告と右訴外人との間の関係等について知ることなく被告が昭和二十八年一月二十一日、本件電話加入権の名義が被告名義に書換えたのであるから、被告は正当な権利の行使によつて、本件電話加入権を取得したものと認めることができ、従つて、原告に対する共同不法行為が存在したとする原告の主張は全く理由がない。右の認定に反する証人鈴木庸之助の供述は、これを信用することができない。
従つて原告の被告に対する予備的請求は、理由がないといわなければならない。
よつて以上の事実にもとずく、原告の本訴請求はいずれも失当であるから全部棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 加藤令造)